国立音楽大学附属図書館 Kunitachi College of Music Library

《朗読の楽しみ》 第1回 [1]

たや仁子さんからの手紙

前略
 先日は、大変すばらしい時間をすごさせていただき、ありがとうございました。
 ことば・声の音そのものの響きや流れ、作用したり存在したりする力、その不思議に触れたいという思いから出あった言語造型の道ですが、これほどその魅力を受けとって下さる聴衆の前でできることはもうないのではないか?と思ってしまうほど、皆さんそれぞれによく聴いて下さり、深いところで互いに出あえたのではないかと思います。
 皆で少し動いた後、何人かの方に一人で読んでいただいた時は、それぞれの方が描き感じていることが声の響きになって伝わってきて、じーんとしました。
 動きから声にうつる時、もう少し動いたことを生かしやすい形でもっていけばよかったとか、自分の語りについても反省は多くありますが、(何かお気づきのことがありましたら、今後のために教えていただけるとありがたいです)自分が一番大切にしたいと思っていること(音と響き、そして出あうこと)を感じとれたことが何よりも嬉しく、参加して下さった皆様にも何か持ち帰っていただける時間であったら嬉しく思います。
 企画をして下さった図書館委員の皆様、場を整えて下さった図書館の皆様お一人おひとりにも心から感謝いたします。ありがとうございました。
 また何か機会がありましたらいつでも喜んで参ります。
 一つ山をこえると次が見えてくるもの、私自身は来年度は日本神話をテーマにしていきたいと考えています。そして、今回のような場をふやしていくこと…音楽も、ことばも、生(なま)の音の良さをもっともっと感じていきたいですね!
 では、あわただしい年末が迫ってまいりましたが、皆様お体にお気をつけて、おすごし下さい。
 またお会いできる機会があれば嬉しいです。

草々

国立音楽大学
 図書館委員会、図書館の皆様へ
2010年11月28日
たや仁子


報告と感想 (末松淑美先生)

 去る11月25日(木)の夕方、図書館2階の自由閲覧室にて、《朗読の楽しみ》が開催されました。映画やアニメで育ち、メールで対話し、読書はしても音読はあまりしない学生たち。文学作品の「音」の側面も楽しんでほしいというのが、朗読会を企画しようと思い立った理由です。文学と音楽の親しい関係はよく知られていますが、その表現媒体である「ことば」もまた、「音」という点で音楽と似たところがあります。それを学生に体験してもらうために、第1回は宮沢賢治の力を借りることにしました。賢治が描く独特のことばの世界には、多くのファンがいます。ことばの「音」でイメージを描く言語造型家のたや仁子(よしこ)さんをお招きし、『よだかの星』『雪渡り』を朗唱していただきました。風景が広がり、色や手触りまで感じられそうな朗唱に、参加者は一様に熱心に聴き入っていました。舞台のような照明設備の無い閲覧室では、半分以上の人が目をつぶって聴いていました。
 二作品の間には短いワークショップをはさみ、たやさんに朗唱の方法を少しだけ伝授していただきました。少し体を動かしたあと、イメージを描いてからそれをことばに乗せる練習をしました。参加者同士および朗唱者との距離も、そのときぐっと近くなったようです。朗読会を最後まで聴いた参加者は、熱心にアンケートを書いてくれました。多くの学生は、たやさんと話してから、「また企画してください!」と言って帰って行きました。アンケートを読んでみると、これまであまり朗読を聴く機会がなかったと書いている人が多く、声に出すことによって作られるイメージや映像に、それぞれ多くのことを感じたようです。「音を聴いて情景をうかべるという点で、音楽と共通していると思う」「世界の作り出し方に感動した」などの感想は、ふだん表現に関わっている学生ならではのものかもしれません。
 私自身も思いがけぬ発見をしました。それは、ブラウジングルームに展示された宮沢賢治関連の資料です。私たちの図書館に日本文学の貴重な資料がこんなにあったのか、という嬉しい驚きと同時に、並んでいる図書や楽譜からは宮沢賢治の世界と音楽との深いつながりが明瞭に伝わってきます。やはり、朗読会と図書館の相性は最高だと確信しました。朗読で感性を磨き、展示で知識を豊かにする。ちょうど、素晴らしい音楽会の帰り道、プログラムを読みながら音楽を反芻するような幸福感がありました。これからもぜひ、《朗読の楽しみ》が続くことをと心から願っています。

末松淑美