今月の栞 2015年
1月
梅本実先生 (ピアノ)

KS00090


  塩野七生著
『ローマ人の物語 4 (ユリウス・カエサル ルビコン以前) 』
『ローマ人の物語 5 (ユリウス・カエサル ルビコン以後)』
新潮社 1995
   この本は著者の塩野七生が15年かけて完結させた「ローマ人の物語」のシリーズの第4巻と第5巻であるが、今からちょうど20年前の1995年に出版され、神戸の大震災や地下鉄サリン事件があった年なのでよけいに記憶に残っている。たまたま近くの本屋で立ち読みを始めたところ止められなくなり、思わず買ってしまった。それまで歴史というものに対してあまり関心がなかったのは、恐らく受験勉強でやった年号語呂合わせ(「鳴くよウグイス平安京」の類です)のアレルギーが長らく続いていたためであるが、この本ではユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)という破天荒な人物が、塩野によってとても生き生きと描写されていたのが一気読みした理由であろう。特に戦闘シーンには血湧き肉躍り、しばらく僕の中にカエサル熱というものが冷めることがなかった。洋行する機会を捉え、第4巻のハイライトであるアレシア(ガリアの総大将ヴェルチンジェトリックスとの決戦があった場所)をわざわざ訪ね、そこにあった資料館の窓から古戦場を眺めながらしばし感慨に耽ってしまい、同行する人たちを呆れさせた。
それ以来著者の本はほとんど読破したが、やはり一番面白いのがこの本である。多分彼女のカエサルに対する思い入れの強さがその理由であろう。これを執筆している間は毎日カエサルと一緒に生活しているようだったそうである。著者は出来る限りの資料を集めそれらを徹底的に読み込み、綿密な調査をしたうえで書いているが、単なる歴史書と違うのは、それに著書自身の想像が加味されているからではないかと思う。これは思えば我々が携わっている「演奏」にも通じることではなかろうか。原典、文献、資料に出来うる限り精通せねばならないことは確かであるが、それらを生かすことが出来、最後に演奏の魅力を決めるのはその人の想像力に他ならないのではないかと思うのである。

  図書館員からひとこと