今月の栞 2014年12月 草野明子(ピアノ)

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  アルトゥール・ルビンシュタイン 著 ; 徳丸吉彦 訳
『華麗なる旋律 : ルビンシュタイン自伝』
平凡社 1977
   子供の頃から現在に至るまでの中から本を紹介するという事は、いわば自分の人生の節々に何に興味を持ち、影響を受けたかを振り返ることに他ならない。小学校から中学、高校にかけて常に愛読書は夏目漱石であったが、ピアノを専門に勉強しようと志した13歳の頃より音楽書が確実に増えてきた。私の師の大野(深沢)亮子氏とその母上の敏子氏が書かれた「ピアノの日記」「続ピアノの日記」「ウィーン日記」を何回も読み返しては自分の勉強の方法に生かし、ウィーンへの憧れが芽生えた。あの当時私より年上のピアノ学習者は殆ど読まれた事と思う。クララ・シューマンの本を読んでは尊敬し、ギーゼキングが頭の中だけで暗譜してそのまま演奏会で弾いてしまった逸話など今でも覚えている。高校卒業後12年間ウィーンとイタリアに滞在したが、ウィーンではその頃テレビは2チャンネルしかなくそれも1日中やっているわけでなく、ましてインターネットも無い時代ひたすら活字を求めた日々を思い出す。友人間での貸し借りは時には一貫性に欠けると思われるほど様々な本を読んだ。その時期にどうしても読みたくて送ってもらった1977年に日本で出版された「華麗なる旋律 ルービンシュタイン自伝」は600ページにわたる口述形式の大作である。ルービンシュタイン(1887-1983)はポーランドのピアニストで、96歳!の人生を送った。ストラヴィンスキー、ブゾーニ、ラフマニノフなど歴史に名だたる人々と同じ時代に生き、アルベニスの家族を通して彼の作品へのアプローチを深めたなど音楽史の生き証人である。またユダヤ系民族としての苦悩、40歳過ぎてから技術を根本的に見直す訓練を自ら施したという音楽家としての生き方など、世界情勢と共に豪華絢爛な音楽界を是非知ってもらいたいと思う。5年後に出版された「ルービンシュタイン自伝 上下巻」をもって彼の人生の語りが完結する。今の若い世代に彼を今一度この本を通し、ショパンのみならず様々な録音を聴いてもらえたらと望んでいる。
  図書館員からひとこと