今月の栞 2014年11月 三木香代先生 (ピアノ)

KS00087


  東浩紀 著
『弱いつながり : 検索ワードを探す旅』
幻冬舎2014
   最近印象に残った本を紹介したいと思います。著者の東浩紀(1971〜)は、1990年代から活発な批評活動を続けてきた思想家です。彼の難解な哲学書は私には到底読めませんが、この本は平易な文章で書かれているので気軽に読めました。特にネットにどっぷり浸かっている学生の皆さんにはお薦めかもしれません。
 ネットでは情報があふれているように見えますが、本当に重要な情報は見えません。それは、「ネットでは自分が見たいと思っているものしか見ることができない」し、「ネットには自分が書きたいと思うものしか書かない」からです。検索システムの進化によって知らないうちに予測検索され、「他者が規定した世界でしかものを考えられなくなる」のです。そこで著者は、「環境を意図的に変えること」で、新しい検索ワードを手に入れることができると説きます。そのために場所を変えよう、移動しよう、旅に出よう、というわけです。でもこれは、ネットよりリアルが大事、というような話ではありません。ネットにはないノイズをリアルで入れる、つまり偶然に身をゆだねることで情報の固定化を乗り越え、ネットの強みを生かそう、というものです。
 「言葉」と「モノ」の話も大変興味深いものでした。「言葉で真実を探さない」、「記憶の書き換えに抵抗するためにモノを残す」、「国民と国民は言葉を介してすれ違うことしかできないけれど、個人と個人は『憐れみ』で弱くつながることができる」といった考え方にも共感できます。社会の閉塞した状況を打開する方法として、希望が持てるのではないかと思いました。
 東日本大震災と原発事故から3年以上経ちましたが、まだまだ決して過去のことではありません。あの時は皆衝撃を受け、いろいろなことを考えたと思います。でもどうしても記憶は薄れていきます。しかし、時が経つほど心に留めていなければならないと私は考えています。東浩紀は、震災直後から福島の原発事故について関心を持ち続けている人です。「『科学的には言語化できない』痛みを言葉に置き換えていくのもまた哲学の役割」であり、自分の責務でもあると言っています。
 読めば読むほど、著者の温かいまなざしと深い思考が感じられる、とてもよい本でした。是非手に取ってみてください。
  図書館員からひとこと