今月の栞 2014年11月 秋山理恵先生 (声楽)

KS00086


  フリッツ・ヘンリー撮影,幾野宏訳
『カザルス : 写真集 : 芸術と人生のパンセ』
小学館 1977
    幸福、喜び、成功…。誰でも望むものですが、簡単に手に入らないもので、いつも心を揺さぶられて大変な思いをします。
そのような時、私は誰にもおしゃべりが出来ない代わりに“本”が唯一の友であり、救いになります。なぜなら悩んでいる事を上手に説明する能力も、他者からの助言をどのように受けとめるのかという能力も苦しんでいる中から見つけ出すのは容易ではなく、その能力をつける為にも本を読み、勉強する必要性を感じるからです。目から入る情報により、ゆっくり自分の感情と論理性に符合することを学ぶのだと思います。
まずは、小学校時代の思い出の本の中から“少女パレアナ”を取り上げます。最近では朝ドラ「花子とアン」で“赤毛のアン”が紹介されましたが、児童文学書は人生の深い底までを簡単に明確に学ぶことが出来ます。主人公のパレアナは、他人の不幸を見過ごすことなく、幸福に変える手助けをします。ただ単に不幸を嘆くことなく、その苦しみの中から幸せを見つける努力と、人の心が考え方一つでみるみる変化する内容に心を動かされたものです。それ以来、私の中でも不幸が起こった時は、なるべくジタバタせずに幸せ捜しをして対処するように心掛けるようになりました。でも、毎日勉強する上で、技術的な事、精神的な事等、頭で理解していてもなかなか云う事をきかないのが心ですね。目で見えないものだからこそ難しく、音楽表現としてどうしたら良いのだろうと悩んだものです。
 
 大学院修了後、フランス・パリに九年間留学している間に、今回ご紹介するパブロ・カザルスの本に出会いました。この本には、彼の人生に対する愛、音楽への愛…。“愛”という壮大なテーマが散りばめられていました。人生は理想論ばかりではなく、現実を見据えて、毎日立ち向かわねばならない、その向い方について、彼はシンプルに書いています。毎日規則正しい練習、自然を愛する心、感動する一瞬を大切にする事、一人の人間として自身を律する事等…。芸術する前に、一人の人間として自分自身を成長させる事が一番の幸福への近道である。そう教えてくれたのがパブロ・カザルスの本でした。それから私は、不幸は幸福の内にあるもの、喜びは悲しみと表裏一体、成功は失敗があってこそと、全ての感情に立ち向かえるようになって参りました。それまで、哲学書や文学書に活路を開こうとしておりましたが、カザルスの本に出会い、自然と心を動かされました。そして、声という“音”にした時に少しずつ私自身納得し、表現者としての喜びに、知らず知らず導かれてきたように思っております。学生の皆さんも一度読んでみてください!カザルスの表情を見てください。
 きっと皆さんの心に一筋の光が灯されると思っております。

  図書館員からひとこと