今月の栞 2014年10月 友利修先生 (音楽学)

KS00085


  E.M. レマルク著,山西英一 訳
『凱旋門』
ブッキング 2003
   レマルク (Erich Maria Remarque 1898-1970) というドイツ生まれの作家は、今どれだけ読まれているだろうか。 第一次大戦後に発表され戦争の愚劣さを告発した『西部戦線異状なし』の成功で、「反戦作家」という彼のイメージが決定づけてられている感もあるが、彼はもっと幅広いテーマで小説を書き、その本領は生き生きとストーリーを展開していくところにあった。
1946年に発表されたこの『凱旋門』、舞台は第二次大戦前夜のパリ。ドイツは既にナチス政権の支配下にある。その中、政治的理由でパリへと逃れたドイツ人医者が、不法滞在でヤミ営業をしながら、ある秘密の目的のために生きている。そこに、人生の行き場のなくなった無名の女優との偶然の出会い。迫り来る戦争が色濃く影を落とすパリの街が孤独な二人を引き寄せ、引き離す…というと、TVドラマか映画のようだが、実際もともと映画化を前提に書かれた。映画は今では懐かしの名画となっている。宝塚でとりあげられたとも、この文章を書くにあたって知った。
そうした話のため、文学的には甘く通俗的として低い評価を下されたりするが、甘いメロドラマこそ小説の楽しみの王道ではないだろうか。読んでみれば、その甘い楽しみの中で、人間の究極的な孤独性、変えられない運命、壊れやすくそれゆえまさに大切な愛などについてたぶん考えることになるだろう。描かれる男女関係は複雑なちょっと大人のもの。不幸にしてその心理の綾を若いうちから理解する者もいれば、理解しなければならなくなる状況を迎えずに一生を終える者もいる。
残念ながら、邦訳はかなり絶版に近い状況。現在の日本の出版事情の中で、この作品に限らず、多くの一時期ポピュラーだった文学作品の翻訳が絶版になっている。そうした作品にもっと目を向けて欲しいという気持ちもあって、図書館の方に少し無理を言って揃えていただいた。原作はドイツ語だが、当時の政治情勢の中で、最初英語の翻訳版で発表され、世界中で読まれた。英語版は普通に入手できる。レマルクの文章は、邦訳だけでなく、英語で読んでもドイツ語で読んでも簡潔でリズムがあって読みやく、言語の特性に頼らずに人を楽しませるものを持っている。英語版も揃えていただいた。邦訳版と対照しながら読んでいき途中から英語版 (あるいはドイツ語版!) に引き込まれていくようなことがおきれば、あなたは外国語で小説を読む楽しみをもう覚えたことになる。
  図書館員からひとこと