今月の栞 2014年10月 加納悦子先生 (声楽)

KS00084


  S. ツヴァイク 著
古見日嘉 訳
『メリー・スチュアート』
みすず書房 1983
    ドイツでは、専属歌手が自分のホームのオペラハウスではなく、他のオペラハウスに呼ばれて歌いにいくことを「客演」と言っています。所属しているオペラハウスから「客演許可」をもらって他の都市にしばらく出かけていきます。しばらく、というのは演目にもよりますが、新しい演出だったりすると6週間のリハーサル、その後何回かの公演とあわせて、2ヶ月くらい違う街に滞在するのです。普段住んでいる家を離れて旅に出ると楽しいこともたくさんありますが、練習時間以外はけっこう暇です。美術館に行ったり、夏だったら近くの川に泳ぎに行ったりとヴァカンスみたいなこともできますが、それでも時間を持て余すこともあります。第一、仕事で「歌いに」行っているわけですから、遊びすぎて病気や怪我もできません。
 20年ほど前、私がケルン歌劇場からドイツ中部のシュトゥットゥガルト歌劇場に客演したのは真冬で、その年は雪が多くて、どこを歩いても滑るような道ばかりでした。2ヶ月ですのでホテル暮らしはやめて、自分で短期賃貸の部屋を探しました。シュトゥットゥガルトの町を見下ろす丘の中腹の小さな教会兼、牧師さんの住居の建物の一室です。その部屋で毎晩、本を読みました。シュテファン・ツヴァイク著の「メリー・スチュアート」も読破し、−分厚い一冊でしたので− 達成感がありました。昨年、再びこの本を読み返しましたら、本当に素晴らしい歴史本であることに気が付きました。歴史の悲劇ヒロインのお話は色々な作家が小説化していますが、このツヴァイクの小説(いや、小説ではありません。伝記ですが。)は冷静に歴史を追いかけつつ、作家自身の主人公へのコメントも巧みに織り交ぜながら、そして、その場にいるような臨場感に満ちています。
 最近はインターネットを使って世界中の本が日本でも簡単に手に入るようになりました。
私も、まだまだ読み足りないヨーロッパの本をたくさん読もうと思っています。

  図書館員からひとこと