今月の栞 2014年9月 中島大之先生 (ホルン)

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  H.G.ウェルズ 著
中村融 訳
ウォーウィック・ゴーブル+WONDER WORKZ 装画・装幀
『宇宙戦争』(創元SF文庫)
東京創元社 2005
   子供の頃の夢は、しばしば年齢とともに変化するものであるが、私の場合、幼少の頃のタクシー運転手から、警察官(正確にはパトカー運転手)→医者(正確には救急車運転手)→天文学者→医者(ほんとの医者)、そしてようやく高校2年生にしてホルン奏者、という変遷を遂げる。大好きだった車を卒業し、小学校高学年にして抱いた夢が天文学者であった。両親にせがんで天体望遠鏡を手にし、月面のクレーターや土星の輪、木星の大赤斑を毎晩の日課のように眺めては、想いを宇宙の神秘に馳せる、人生において最も純粋だったと自負する時期である。
 天体観測に夢中になる一方で、当時児童向けに出版されていたSFのシリーズ物を読みあさり、今でも印象に残る2冊が「地球最後の日」と「火星人襲来」。フィリップ・ワイリー著「地球最後の日」はどうやら現在は廃刊のようで、今回ご紹介するのは、その児童向け図書「火星人襲来」の原作、H・G・ウェルズ著「宇宙戦争」である。
 19世紀の終わりに書かれたこの小説は、人類よりも知能の進んだ火星人が地球にやってきて、舞台となるロンドン周辺を破壊し、この星の長であった人間の誇りと尊厳をずたずたに引き裂いてしまうという筋書きで、過去から現在まで、著作制作されたあらゆるSFの小説、映画の源流となった。タコを思わせるちょっとユーモラスな火星人のイメージを創り出したのもこの作品。そして実際、この「宇宙戦争」は1952年に最初の、そして2005年にはスピルバーグ監督によって再映画化されているので、ご覧になった方もおいでであろう。
 話を天体観測に明け暮れた少年時代に戻すが、望遠鏡で見える遠い宇宙に想いを巡らせ、遥か彼方に意識が旅立つ時、無音のはずの頭の中に神秘の響きが駆け巡る。それは今でもはっきりとイメージすることができる。その大宇宙の響きと、時期を同じくして聴き始めた大オーケストラが奏でる、ある種の崇高な響きに共通点を見いだし、自分の人生に「音楽」という選択肢をもたらしたのは、実はこの少年時代だったのかもしれない。
  図書館員からひとこと