今月の栞 2014年6月 吉成順先生 (音楽学)

KS00079


  手塚治虫 著
『タイトル 火の鳥. 2 (未来編)』
小学館 2013
   はじめて「なりたい」と具体的に思った職業は漫画家だった。小学校のころは石森章太郎の『マンガ家入門』をむさぼるように読み、卒業時の学校新聞には「ディズニーのようになりたい」と書いた。そのころ、「漫画の神様」手塚治虫が『COM』という雑誌を創刊した。「まんがエリートのためのまんが専門誌』と銘打たれ、漫画表現の可能性を切り拓くような作品がいくつも掲載されていた。当時の私にはよく分からない作品も多かったが、分かった気になって自分も「エリート」になったつもりでいた。そんな中で、すなおに面白いと思えたのが手塚治虫の『火の鳥』だった。
 古代の日本を舞台にした第1部「黎明編」にもわくわくしたが、第2部の「未来編」はそれどころじゃなかった。未来都市と世界戦争。それ自体も大きなテーマだが、実は長い導入部にすぎない。本題はその後だ。いったん破壊された地球が再生し、新しい歴史を作っていく。一つの歴史がとだえると、再び再生がはじまる。地球も生きている。宇宙も生きている。そして生命全体は、無限に死と再生をくりかえしながら生き続ける。
 時空を超越した存在である「火の鳥」が、歴史を見とどける役目を負わされた主人公に、宇宙の姿を開示する場面がある。細胞や素粒子の中に無限の小さな宇宙がつらなり、太陽系や銀河系の外側には無限の大きな宇宙がひろがっている。わずか数ページの描写だが、思春期(というのはつまり、世界と自分との関係を意識しはじめるころ)にさしかかった私に与えた印象は、強烈だった。今でも、世界とか宇宙とかという概念を考えるときには、真っ先にこの数ページが頭に浮かぶ。
 リアルな世界はアトムを作れないまま『鉄腕アトム』の時代を追い越してしまったけれど、『火の鳥』未来編のはじまりまでには千年以上ある。まだまだ読みつがれる価値のある作品だと思う。
  図書館員からひとこと