今月の栞 2014年5月 丸山和範先生 (音楽理論)

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  五木寛之 著
『青年は荒野をめざす』
文春文庫 2008
   高校時代の愛読書。御茶ノ水に通う三年間、さすがに学生運動は収束していた1975年辺りだが、駅前には明大生が書いた学生運動名残りのプラカードが乱立し高度経済成長期、毎朝の超満員電車は弁当箱が歪む程。そこは古本の街神保町に隣接する学生街で、当時のスノッブな若者達が喫茶店で議論をしているような環境で僕は気に入っていた。しかし我が母校芸大附属高校は毎日アカデミックな書式やソルフェージュの訓練、池内先生のフーガのしごきのレッスンが三日おきにあったりして、我ながらよく頑張ったが、日課の本屋の立ち読みでこの本を見つけ、何処か遠い所に行きたくなり、普段と違う事をやりたくなった。エスケープへの憧れ。満員電車の中ではウォークマンが無い時代なのだが、高校で習っているアカデミックなものと正反対のジャズやメシアンや武満が鳴っていたかな。いやカーペンターズや歌謡曲だったかも。
 強く影響を受けた音楽体験は歌謡曲からチャイコフスキーへ進み、メシアン、武満、プログレ、フランクザッパ、クセナキスへと移ろいながら所謂アカデミックな音楽をやればやる程何とかそれに反発しようともがいていた高校時代だった。
 本の主人公は20歳、金もろくにもって無くて、横浜から安いナホトカ行き旅客船に乗り込み、あとはヒッチハイクを繰り返してヨーロッパへ辿り着き、凄い人々との強烈な出会い、一時的な恋愛と別れ、ユダヤ人迫害の爪痕との遭遇などを経て成長していく。
 僕は当時から漠然と日本がおかしいのではないかと考えながら大人達が作った既成の社会を見ていたように思う。だから毎日与えられた課題をこなしつつも時間をみて現代音楽や前衛的な高橋悠治さん達のグループに参加したり、小泉文夫さんの民族音楽のレクチャーを聴いたりして反骨精神的快感を味わう楽しみがあった。そんな誘いとなった本が、『青年は荒野をめざす』でした。今の若い人達は、世の中の仕組みを疑いながらも何か冒険したりはみ出したり出来ない様になっていて、なかなか大人達が作った文化社会システムを改革しようと言う風情ではない。就職難やら資格取得やらで汲々として可哀想。でも自由気ままに青年は荒野をめざす事は、若さでしか、許されない事の一つ。無謀なことをやれとは言わないが、少しは、はみ出すことをした方が面白いし体験豊富な想像力豊かなイイ人になるかな。そんな感じでエスケープ、リセット、発想の転換ができる本ですね。
  図書館員からひとこと