今月の栞 2014年4月 今井顕先生 (ピアノ)

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  吉野源三郎 著
『君たちはどう生きるか』
岩波書店 2006
   中学受験に挑み、私は晴れて私立の男子校に進学できた。数十年前のことである。嬉しかった反面、今まで一緒だった友達とは違う世界に踏み込み、新しい交友関係はどうなるのだろう、と一抹の不安も感じていた。
 授業も始まって間もない頃、1年生全員に本書『君たちはどう生きるか』が配られた。中学生になって「これから大人の世界に近づいていくんだ」と気負っていたさなかにこの本に出会い、いろいろ考えさせられたことをまだ鮮明に覚えている。
 若年層向けに書かれていながら、大人が読んでも充分な手ごたえがある作品は数多い。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』もそのひとつだろう。初めて読んで感じたこと、しばらくたってから読んで発見したこと、ずっと後になってから改めて読み返して気がついたこと…──こうした名作は読む人の成長とともに、さまざまなことを気づかせてくれる。
 この物語の主人公は本田潤一、あだ名が「コペル君」という15歳の少年だ。中学生である。でもこのコペル君は戦前の中学生。あなどってはいけない。結構大人だし、賢い。何よりもすごいのは「自分で考えよう」としていることだ。このコペル君が大学を出てから間もない法学士の叔父さん(お母さんの弟。大銀行の重役だったお父さんは2年前に逝去)との交流を通していろいろ感じ、考え、行動する様子が描かれている。しかし、すごいのはコペル君だけではない。叔父さんも「大学を出てから間もない」にしてはずいぶん大人だ。21世紀とはだいぶ様子が違う…。
 この本を学生諸君に紹介するに当たって、私自身も久しぶりに読み返してみた。読み応えは充分だ。文章は平易だが、そこにはとても大きな「何か」がある。「何か」は読む人によってさまざまだろう。今回自分の心でつかんだこの「何か」をこれから大切に見つめ、育てて欲しい。
  図書館員からひとこと