今月の栞 2013年9月 風岡優先生 (ヴァイオリン)

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  森有正 著
『バビロンの流れのほとりにて』(『森有正エッセー集成. 1』より)
筑摩書房 1999
      そもそも私は自分の演奏会において、プログラムにせよ口頭にせよ、「楽曲解説」じみたことは書いたり話したりはしない主義である。「もしもこれを聴いて興味をお持ちなら、知りたいことはご自分でお調べください」ということである。この森有正「バビロンの流れのほとりにて」をご紹介するにあたっても、私自身の感興を述べても仕方ないと思うし、むしろ、これからこの本を手に取る方にとって妨げともなりかねない。ただ、私が読んできた数ある本の中で、今回この書を取り上げたのは、まずは大学の図書館からのご依頼であるからして学生さんに読んで頂きたいものと考えた時、最初に頭に浮かんだ書物だからだと、申し上げておきたい。

   年寄りの常套句「今どきの若いものは・・・」となってしまうのだが、私の世代くらいまでは、周囲の事柄を(政治も何もすべてひっくるめ)自分の内面に関わるものとして、もちろん手探りではありながら、ともかくも「考えること」は必須であることを疑わなかった。結局は安保も学園紛争も挫折を味わうことになったし、少し歳を重ねれば自分がどの程度のものかも知ってしまうことになるにせよ、ある時期、そうすることを何かに強いられていたような気もする。一方、今どきの若い・・・ではなくて昨今の学生さんは、外見上平穏無事で、肝心なところ以外は物事あけすけな社会に生き、「考えること」を誰かに、あるいは何かに求められることなく生きているように見えるのは、この年寄りの偏見かもしれない。とは思いつつ、「思考」についての一端をこの書から知って頂ければと願った次第である。正直なところ「森有正」という人間は、私などとは別世界に生を享けた「血統書付」人種であり、であるからこそこのような思索にふける時間を与えられていたのかも知れないが、そうであっても、今の若者に対し「考えること」を教えてくれる一書ではあると思うのである。

  図書館員からひとこと