今月の栞 2013年6月 足本憲治先生 (音楽理論)

KS00059


  星新一 著
『ボッコちゃん』
新潮社 1971
      思い出の一冊ということで、「ショートショートの神様」こと、星新一を。
   彼は、中学生だった私に「世界の楽しみ方」の一つを教えてくれた作家でした。その作品自体に熱狂した事もさることながら、彼の周辺のこと、それが抜群に面白かったのです。彼の活動を追っていると、「空飛ぶ円盤研究会」「宇宙塵」「日本SF大会」「エヌ氏の会」といった刺激的なキーワードが次から次へと現れて私を興奮させましたし、知己の人物として挙がる名前も、SFの大家アシモフ、小松左京、筒井康隆、北杜夫から手塚治虫、はてはタモリといった錚々たる面々のものでした。(ちなみに『ボッコちゃん』の解説文は若き筒井康隆!そして「ここに何故タモリが?」と思った人は未だ彼の凄みを知らない!)
   そうして私の読書対象は連鎖的に(かつ少なからぬ偏りとともに)広がっていきました。世間を見渡し、歴史を学び、様々な創作活動同士の繋がりや系譜を楽しむこと。大げさに言えば、「文化」に接する醍醐味、それを実感し始めていた気がします。

   数年前、世田谷文学館で催された「星新一展」へ足を運びました。数ページで終わるその短さゆえ「ショートショートはアイデア勝負」としばしば言われますが、そこで目にした彼の創作メモの数々はまさにそんなアイデアとの格闘の生々しい痕跡でした。
   作品の根幹を成すコンセプトからちょっと気の利いたヒネリまで、およそ何かを作り出そうとすれば絶対に必要となる「アイデア」というモノ…展示を前に、生みの苦しみや快感といった情念が混然一体となって立ち昇ってくるのをひしと感じつつ、時の経つのを忘れ見入ったことを思い出します。

   今回、紹介するにあたり本棚の上の方から「ボッコちゃん」をそっと取り出し読んでみました。アイデアを生み出し続けた彼の力と、それをカタチにする手腕。締切に追われる我が身に向かって、「アイデアは体力!」という彼の台詞が聞こえてきました。

  図書館員からひとこと