今月の栞 2013年5月 河村初音先生 (ピアノ)

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  柳田邦男 著
『いつも心に音楽が流れていた』
平凡社 2009
      ある日、図書館よりメールが届き、推薦する本を一冊選んで欲しいと言われた時思った事は「大変!原稿を書くなんて!」だけではなく「どの本にしよう…」でありました。ともかく幼少時より本好き、活字好きなもので一冊だけを選ぶというのはかなり難しい作業でした。悩みに悩み、家にある本を片っ端から引っ張りだし、読み返し、申し訳ない事にこの原稿も締め切りを過ぎてしまいました。
   何とか選んだ基準として最近読んで刺激された一冊、そして以前、門下の学生に貸して皆が面白かったと言っていた一冊ということにしました。この「いつも心に音楽が流れていた」には多くの芸術に関わる人々や、作品などが紹介されています。それも音楽家でない著者であるからか、様々な視点から紹介されています。読み終わると「この曲を聴いてみたい。」とか「この本を読んでみたい。」と興味が広がっていくので、推薦する事にしました。
   乱読ながら高校生の頃までは殆ど海外文学ばかり読んでいましたが、パリに留学した頃から日本語に飢え、まるでホームシックのように日本文学に傾倒していきました。特に川端康成の「古都」や、三島由紀夫の「豊穣の海」などを読むと日本人であることが誇らしく思えました。言葉の隙間から立ち上るように雨の匂い、動く風、季節毎の花々の薫りまで感じられ、想像力を刺激されたものでした。
   そして帰国してから出会った作品に、中勘助「銀の匙」、幸田文「おとうと」、芝木好子「青磁砧」、谷崎潤一郎「陰影礼賛」、田辺聖子「源氏物語」、福永武彦「夜の三部作」などがあります。どの作家の作品も日本という国の持つ深い文化の薫りが漂います。衣食住の楽しみ方、きめ細やかな肌触りが感じられて、現代の合理性が何とも味気なく、自分が文化から程遠い生活をしている事が少し哀しく思えます。
   学生の皆さんが日本という国の文化度、そして様々な芸術家の先輩達がヨーロッパの音楽に匹敵する芸術を慈しみ育てて来たという誇りを持ち、感じる心と想像力を育てていく為にも沢山の本に触れて欲しいと願っています。

  図書館員からひとこと