今月の栞 2013年5月 森太郎先生 (音楽学)

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  藤原正彦 著
『若き数学者のアメリカ』
新潮社 1981
      70年代のアメリカ留学記である。これから海外を目指す学生に特に読んでいただきたい。題名に「数学者」とあるが難しい話ではなく、研究者として訪れた大学内外での生活をつづった、異文化体験記と言える。40年近く前の話であり、既に懐かしくなっている話題もあるが、いま読み返してみてもみずみずしさは失われていない。
   途中に立ち寄ったハワイ、ラスヴェガスなどでの体験に始まり、所属する大学の生活や他の州への旅を通じて、アメリカ社会を理解してゆく様子が描かれている。そして著者が感じた孤独感や焦燥感、外国人に対する対抗意識、心の葛藤、そしてそれらの克服などが実に軽妙な語り口で記されている。
   同じ著者が英国での滞在について語った『遥かなるケンブリッジ―数学者のイギリス―』とあわせて推薦したい。私自身の異文化体験はほとんど欧州におけるものであり、どちらかというと後者の方に共感する話が多いのだが、初めての留学等の前にぜひ読んでいただきたいのは前者である。
   外国に長く滞在すると、自分自身や祖国のことについて深く考えることがあり、それが異文化体験を通じて学ぶ最も重要な点の一つだが、本書によって、その過程が見事に追体験できる。

  図書館員からひとこと