今月の栞 2013年4月 古川聡先生 (幼児教育学・教育心理)

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  井上ひさし 著
『ドン松五郎の生活』(上下巻)
新潮社 1975
     私は、高校生の時に遊びすぎた結果、浪人時代を過ごしました。卒業後、浪人生活が始まったとはいえ、急にまじめにできる訳もありません。朝9時には予備校に顔を出したものの、すぐに散歩に出かけ新宿周辺を歩き回っていました。そして通ったのが駅周辺の書店です。一日に何軒も周り手当たり次第に読みました。そして井上ひさしにたどりつき、彼の著作を読みあさったのです。そのような中、12月はじめに入院、暮れに手術、そして1か月間の寝たきりの生活を送りました。二浪の文字が近づいてきました。やはり、それでも現実逃避。そこで手に取ったのが『ドン松五郎の生活』でした。ドン松五郎というのはこの小説に登場する主人公のイヌの名前です。捨て犬だったものの拾われた家は小説家で非常に多くの本があったことから、彼はひらがなもカタカナも読めるようになりました。小説はこのイヌたちが繰り広げる騒動劇ですが、彼らは「自分たちが幸せになるには、まず人間が幸せにならなければならない」という真実を見いだし、世の中をより良い方向に変えていこうとするのです。この本をベッドで読みながら、片手間の勉強の末、ようやく浪人生活脱出という明かりが見えました。井上ひさしは浪人中の私に力をくれた大きな存在でした。井上ひさしは次のように述べています。「この世は涙の谷、嘆きの谷である、と孤児院時代に教えられました。だからつらいものは読みたくない。つらいものを超えるために笑いがある。何故書くかと言われると、自分の読みたい小説を自分のために書くとしか言えません。夜なんか書いていて思わず一人でケッケッと笑い出してしまうような作品は成功します」。そうです、みなさんも大いに笑い、楽しい大学生活を送ってください。落ち込んだ時には井上ひさしが力になってくれるはずです。

  図書館員からひとこと