今月の栞 2012年12月 林千代先生 (英語)

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  Michael Rosen’s sad book
words by Michael Rosen ; pictures by Quentin Blake
Candlewick 2005
     長い一生の間、人々は様々な「とき」を経験する。この上ない幸せや喜びに包まれるとき、夢中になって時が経つのも忘れるとき、また、願いが叶わず、がっかりしたり、得体の知れない憂鬱に暗く沈みこむときだってある。そして、だれもが深い悲しみに打ちひしがれるときも経験する。人々はこの人生の「悲しみ」とどう向かい合うのか、そして、その悲しみの底からどうやって立ち直っていくのか。アメリカの児童文学作家、マイケル・ローゼンが書いた絵本「悲しい本」は、悲しみに直面した一人の大人の姿を描く。悲しみから逃げることなく、真っ向から悲しみと向き合って、悲しみを受け入れることにより「希望」へと向かって行く一人の大人の姿を。

   例えば、ある日、突然自分の子供が死んでしまったら。それがとてつもなく耐え難い悲しい経験であることは、だれにでも容易に想像できる。そんな父親の悲しみをローゼンは描く。最初のページをめくると、いきなり、「悲しみ」を語るやつれた中年男が登場する。読者は「彼はどうしてこんなに悲しんでいるんだろう」と思いながら、次のページに目をやる。すると、それはこの男の子供が突然亡くなってしまったからだとわかる。子供の死を受け入れられない男は、打ちひしがれて、子供と過ごした時間を思い出す。アルバムをめくりながら、家族と思い出を語りながら、あてどなく街を彷徨いながら、「どうして子供にもう会えないのか」、「なぜこんなに悲しいのか」と、自問自答する。悲しみの深淵に沈み込み、生きる意欲を亡くす男。しかし、彼は思い出と向かい合いながら、長くてつらい時間を過ごすことによって、少しずつ子供の死を受け入れていく。このお話の最後は、実際に読んで自分で確かめてほしい。

   そして、読者はそれがローゼンの実際の経験に基づいていることを知る。

   「人間って、喪失体験をしたり、厳しい局面にぶつかったりすることによって、心が耕され、成熟していく。悲しい体験のポジティブな側面に日頃から気づくことが生き直す力につながるんじゃないかって」(柳田邦男著、「朝日新聞」2012年10月26日)

   「悲しい本」を読んで、ローゼンが描く父親の姿と共振することにより、生きる力がじわじわと湧いてくる。柳田が語っていることばを正に表現している本だ。「悲しい本」は実は主人公の再生の物語なのである。原作は平易な英語で書かれているので、原文で読む感動を知るためにもぜひ英語で読んでほしい。

  図書館員からひとこと