今月の栞 2012年11月 久保田慶一先生 (音楽学)

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  山田昌弘, 開内文乃 著
『絶食系男子となでしこ姫 : 国際結婚の現在・過去・未来』
東洋経済新報社 2012
     今回ご紹介する2冊は、偶然にも初版が出された年に100年の隔たりがある。一冊は今年出版された山田昌弘・開内文乃「絶食系男子となでしこ姫」で、もう1冊は100年前に「世渡りの道」というタイトルで出版された新渡戸稲造「自分をもっと深く掘れ!」である。原著の「世渡りの道」という題名が変更されたのは、「世渡り」という言葉があまりいい意味で使われなくなったからであろう。「世渡り」とは本来は「生計を立てること、生活をすること」であって、「渡世」は生活をしていくための職業である。新渡戸はもちろんあの有名な「武士道」(英文:1900年アメリカで出版)の著者である。

   全部で12章からなり、章題を読むだけで本書の内容はよくわかる。「ひとりよがりの生き方をやめる」、「苦労が顔に出ない人の厚み」、「自分を大きくする怒り、小さくする怒り」、「誠実さは二つとない財産」、「新渡戸流・人のこころを確実につかむ方法」、「小さい自分を捨てて本道を行く」、「いい人生をつくる感性の力」、「代役のきかない人になれ」、「自分を磨く材料はどこにでも」、「自分に甘いから泣き言が出る」、「人間学に通じる人のこころ配り」、「自分でとことん満足のいく人生を」が、すべての章のタイトルである。

   この最後の「自分でとことん満足のいく人生を」求める現代の日本人女性たちが「なでしこ姫」である。アジア諸国の男性と国際結婚して、海外で仕事をする日本女性のことである。平成20年の統計調査によると、妻が日本人、夫が外国人の結婚件数は9000カップルで全体の結婚件数の7%だそうである。しかしこの数を多いとみるか、少ないと見るかであるかであるが、この9000件を上回る都道府県が24で、例えば徳島県の結婚件数が3800件と聞くと、なんとも微妙になってくる。

   ではどうして日本の若い女性はアジアの男性と結婚するかというと、3つの理由があるという。@日本経済の停滞と若者の雇用の不安定=成長しているアジア諸国では若者にチャンスが多く、収入も高い。日本の一人当たりのGDPではシンガポールに抜かれ、香港に並ばれている。A日本における恋愛結婚の崩壊=経済的に自信のない日本人男性は好きでも声をかけられない、「好き」という感情がない「絶食系男子」になる。日本人女性は「いい男性がいない」と言う。将来の生活が不安だから好きでも結婚できないし、はたまた「婚活」に走っても、好きという感情がついてこない。B日本社会における女性の生きにくさ=結婚したとしも、子育てしながらキャリアを追及するのがとても難しい。

   社会が多様化して選択肢は増えたが、日本では女性が「自分を磨き」「満足する生き方」を見つけるのが困難なので、必然的にアジア人との国際結婚が増加するという。新渡戸はなにしろ「武士道」を国際的ならしめた人物だから「世渡りの道」では日本人の女性は想定していなかったように思うが、100年の歳月は日本人の人生観や職業観を変えてしまったようである。

   最後に、どうして「なでしこ姫」かと言うと、「なでしこ」はもちろん「なでしこJAPAN」のこと。彼女たちが海外に自分たちの「居場所」を見つけたからだ。「姫」はかぐや姫のことで、かぐや姫がこの世で帝と結婚すれば幸せになれたはずなのに、見知らぬ「月」に行ってしまったから。なでしこ姫たちには魅力的な女性が多く、日本でも「居場所」が見つけられそうな人だからという。そして「絶食系男子」だが、新渡戸流に言うなれば、「誠実で」「こころ配り」ができる男性、なにかしら「武士」にも似てそうな?なでしこ姫との相性は抜群だとか…。

○新渡戸稲造「自分をもっと深く掘れ!」(1912年、実業之日本社;
   2006年、三笠書房)

  図書館員からひとこと