今月の栞 2012年7月 沼口隆先生 (音楽学)

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  ケン・フォレット 著
『大聖堂』(上中下巻)
ソフトバンククリエイティブ 2005
     長大な書籍に見えるかも知れませんが、気楽に読める小説です。読み始めたら止まらなくなることでしょう。書物に対しても相性のようなものはあるでしょうが、多くの方が娯楽として愉しんで下さるのではないかと思います。
   物語の舞台は、12世紀のイングランドの町キングスブリッジ。大聖堂の建立という壮大なプロジェクトをめぐる波瀾万丈が、建築職人のトムとその一家を中心として展開されます。フィクションですが、大聖堂を建てるということの大変さや、中世の人々の生活などが生き生きと描かれています。矛盾するようですが、フィクションならではのリアリティのようなものがあり、中世という時代に興味を抱くのに格好の手引きとなります。
   歴史になかなか興味が持てないという人もいることでしょう。特に古代や中世は、あまりに遠くて異質な感じがし、親しみを持ちにくいかも知れません。しかし、歴史や文学について関心を広げ、興味を深めてゆくことは、たとえば音楽という人類の営みを理解する上でも、とても大切なことです。そして、関心を抱くにあたって鍵を握るのは、気軽に足を踏み入れることのできる入り口です。歴史小説は、そのすべてが歴史的事実なわけではないという点に注意は必要ですが、しばしば周到な時代考証に基づいており、特定の時代の雰囲気を知る上で大きな助けになります。誰しも、接点がないものには興味を持つことができません。まずは、エンターテインメントを通じて接点を作ってみてはどうでしょうか。
   私の手許にあるのは、20年以上前の文庫本の初版です。今回、ここで御紹介するにあたり、「絶版ではないだろうか」などと思い、確認をしてみて驚きました。その後に続編(『大聖堂 果てしなき世界』)が書かれ、最近はドラマ化されたものが日本でも放映されて大変に人気を呼んだとのこと。他人様に偉そうに紹介している場合ではありませんね。私も改めて『大聖堂』の世界にはまってみようと思います。

  図書館員からひとこと