今月の栞 2012年6月 今井慎太郎先生 (コンピュータ音楽)

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  加藤周一 著
『日本文化における時間と空間』
岩波書店 2007
    「世界観」という言葉は、今日ではややカジュアルに、たとえば映画や小説、音楽の舞台設定のような意味で用いられることが多いようです。しかし本来は、人がどのように世界を認識しそして生きるのかという、多分に哲学的な含みがあります。
 このたびご紹介する『日本文化における時間と空間』では、文学や絵画、建築、そして音楽などを通し、時間と空間に対する日本人の「世界観」について、その特質が語られます。音楽は時間に関わる芸術ですから、とりわけ時間に対する「世界観」は、各々の文化における音楽にも何らかの影響を与えているはずです。
 西洋音楽の特徴である構造尊重主義は、始め(天地創造)と終わり(終末)があるユダヤ・キリスト教の時間意識に関わりがあると云われます。時間が有限であるからこそ、全体との関係において部分の意味が定まるという、構造化が可能となるのです。 
 対照的に、日本文化における時間意識は、始めなく終わりない無限の直線であるとされます。こうした時間は分割と構造化に適わず、ゆえに人の関心は「今」に集約されます。「音楽的持続の全体の構造よりも、それぞれの瞬間の音色や『間』を重視する」という日本伝統音楽の特徴は、こうした「世界観」に源流がみられます。 
 日本文化を深く内面化した人間として広義の「西洋音楽」を学んだり仕事にしてゆくことの困難を、そして大きな可能性を、本書は粛として意識させてくれることでしょう。

  図書館員からひとこと