今月の栞 2012年4月 渡辺俊哉先生 (音楽理論)

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  エドワード・W.サイード 著、 今沢紀子 訳
『オリエンタリズム』(上下巻)
平凡社 1993
     多くの印象深い本の中から、一冊だけを紹介するというのは至難の業ですが、今回は、エドワード・W・サイードの「オリエンタリズム」にしました。著者のエドワード・W・サイードは、イギリス委任統治期にパレスティナのイェルサレムで生まれ、後にアメリカへ渡り、アメリカの市民権を獲得しています。この本をいつ読んだか、正確には覚えていません。しかし読後、非常に強い共感と、余韻のようなものが残ったことははっきりと覚えています。日本語訳で上下巻800ページ近くにも及ぶ大著の中で彼は、西洋における、東洋に対する一方的なイメージの押しつけ(いわばそこには強者にとって、都合の良い論理といったものが働いているように思います)という問題を、執拗に語っています。それではなぜこのような、一方的なイメージができあがったのか?それは、他者に対する排他的で閉じられた態度や、無関心が引き起こすものであると、厳しく糾弾しているのです。私はこのような態度は往々にして、差別意識から生じるものだと思います。そしてこのことは、単に西洋と東洋の問題というだけではなく、非常に普遍的な問題を孕んでいることだと思います。人が異なる文化や考えの人たちと出逢ったとき、どのようにしてお互いを理解していくことができるのか?それは現在を生きる私たちに突きつけられた課題であり、益々、その重要性が増していくだろうと思うのです。晩年、指揮者・ピアニストのD.バレンボイムと共に、イスラエルとアラブ諸国の若い人たちを中心とした合同オーケストラの創設に奔走したのは、イスラエルとアラブ諸国が対立している今だからこそ、お互い関心を持ち合い、対話することが大切だと考えたからでしょう。(彼は、音楽に対しても造詣が深いのです)。そして物事は決して単純なものではなく、常に多義的で、様々な背景や奥行きといったものがあるということも、私たちに語っているように思います。

  図書館員からひとこと