今月の栞 2012年4月 小泉惠子先生 (声楽)

KS00035


  ハリール・ジブラーン [著] 、 神谷美恵子 訳
『ハリール・ジブラーンの詩』
角川書店 2003
      決して本に詳しいとは言えないのに、皆様にその紹介をすることは、とてもおこがましい気がして戸惑います。でも、そんな私が、今までに心に響いた本を思い出しながら探してみました。
そして、どうしても二冊から絞れずに悩みました。
一つは、吉野登美子著「琴はしずかに」−八木重吉の妻として−(彌生書房)
もう一つは、神谷美恵子訳「ハリール・ジブラーンの詩」(角川文庫)です。

   「琴はしずかに」は、詩人と共に、また二人の幼い子供たちと生きた著者が、当時の思い出をありのままに綴ったものです。20年以上前、八木重吉の詩につけられた作品を歌わせて戴く機会があり、その際に、恩師より薦められるままに読んだ本です。その素朴な嘘のない文章からは、質素な生活のなかにも、妻として、母として、人として一途に生きてゆく美しい心に打たれました。涙で文字が見えにくくなりながらも一気に読んでしまったことを今でも覚えています。読み終えた後、身体の隅々まで透明になってゆく心の有りようの変化に自分でも驚かされた一冊です。

   「ハリール・ジブラーンの詩」は、神谷美恵子を好んでいた母の影響で、私が学生の頃、家にあった名著「こころの旅」が初めての出会いでした。そして「うつわの歌」という本のなかで、著者の訳したこの詩集に大きく心が揺さぶられました。その後、文庫本としてこの詩の部分のみ出版されたようです。ジブラーンは、レバノン生まれの詩人です。神谷は、それを訳しながら、解説を加えています。その文章もまた楚々として美しく、人柄がしのばれます。詩からは、その時々の心理により、強烈に響く一節に、読み返すたびあらたに出会えます。冒頭の「おお、地球よ」など、あまりに壮大な迫力に圧倒され、心が凛とし、また一方で深い安らぎも覚えます。
どちらもお薦めなのですが、今回は「ジブラーンの詩」を推薦させていただきたいと思います。原詩はアラビア語が多いのですが、各国語に訳され、読まれているそうで、日本語に訳されたものは少ないと聞きました。ですので少しでも多くの方々に目にして頂きたいと思いました。とても薄く小さな一冊ではありますが、傍らにこの一編の詩があることで、私だけでなく皆様にも何らかの道しるべとなりますことを願って。


  図書館員からひとこと