今月の栞 2012年1月 中溝一恵先生 (楽器学)

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  [紫式部] [著]
『与謝野晶子の源氏物語』(上中下巻)
角川学芸出版 2008
     源氏物語を初めて読んだのは中学生の時で、自宅の文学全集を片端から読み始めた頃でした。その後繰り返し手にとって雅な世界にどっぷりとつかり、えもいわれぬ時間を過ごしているということは、やはり無人島に持って行くならこの1冊、という本の候補に値するのではないかと思います。
   私は映画より文学の方が好きです。言葉の綾なす臨場感を頭の中で空想し、イメージをふくらませることがとても楽しいのだろうと思います。その空想の世界の中で光源氏や息子たちが個性的な多くの女性と繰り広げる平安絵巻は、同じ日本人でありながら理解を超える世界でもありました。宮廷文化の香りが漂う物語の世界は、現代社会に生きる私にとっては異文化と言っても過言ではなく、その名残が日本社会のあちこちに立ち現れているのだろうとも感じながら、ひたすら与謝野晶子のむずかしい訳文にしがみついて読んだ記憶があります。光源氏が宮廷社会を生々しく、あくまでも優美に生き抜くさまは、栄華の極みでありながらどこか現実的でなく、作品全体に終始漂うとてつもない儚さにやはり惹きつけられたのだと確かに感じます。男女の愛の物語としては、過去の貴族社会のできごとだと言い聞かせなければ認め難いとも思えるのですが、母系制の面影が垣間見えることには意外な印象を持った覚えがあります。要するに小説として読んでいながら、異文化体験と歴史認識を通して日本文化の一端を学んでいたのかもしれません。
   登場する女性が魅力的か、まだよくわからないのですが、末摘花や六条御息所のような存在感たっぷりの強烈な個性はどこか生々しくて印象深く、同時に紫の上の美しさは見てみたいとも思います。
   原文は難解なことで知られているそうですが、名だたる訳者の版がいくつかあり、読み比べたいとは思いつつも、与謝野晶子訳に慣れ親しんできたのでなかなか手に取る気になりません。この機会に挑戦してみましょうか。



  図書館員からひとこと