今月の栞 2011年12月 栗山和樹先生 (音楽理論・演奏応用)

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  On the track : a guide to contemporary film scoring
by Fred Karlin, Rayburn Wright
Schirmer Books, Collier Macmillan c1990
     初めてテレビドラマの背景音楽を作曲してから、すでに四半世紀が過ぎ、NHK大河ドラマ1シリーズだけでも500曲書いたので、生涯総数としては相当数の曲を書いてきたと思います。しかし、今でも、新しいドラマをやる度に、失敗や驚きがあり、新しい発見が絶えません。そんな「思いついた事」を、その都度、ノートに書き綴ってきました。
   映画先進国のアメリカでは、映画音楽作曲を「フィルム・スコアリング」と呼び、その技法を学ぶクラスを持つ大学も多く、それら大学でテキストとして使われているのが、ここに紹介する本“ON THE TRACK”です。古くから使われているE. Hagen著“Scoring For Films”に続く映画音楽のバイブルです。
   アメリカのすごい所は、「ドキュメント力」で、文字や数字でなかなか表現しきれない音楽等の分野までも、ドキュメント化し、マニュアル化してしまう所だと思います。そのお陰で、後進する者は、先人がやってしまった失敗を繰り返す事無く、先人の続きから発展させていける強みがあります。
   十数年前に大阪大学文学部で映画音楽の講義を頼まれたのがきっかけで、この本を元に、自分の現場で書き綴ったノートをまとめて、授業をはじめました。その後、東映映画「極道の妻たち」をはじめ、数々の作品で起用して頂いた、私の映画の師、中島貞夫監督からのお誘いで、大阪芸術大学の映像学科にて、この授業を本格的にスタートさせました。
   大阪大学でスタートした当初は、大半がこの本の内容でしたが、毎年改訂を加え、今ではこの本の内容からは随分と離れてしまいました。
   映画音楽は、音楽を映像に端的に合わせるのではなく、時系列に心理誘導することにその難しさがあると思います。単に映像にあう音楽を作曲するのは簡単ですが、時系列に観客の心や、登場人物の心理状況を、音楽で誘導し、見ている人が感動するような映画音楽は非常に科学的で、奥が深いと思います。この魅力あふれる分野の研究に礎となってくれたのが、この本です。


  図書館員からひとこと