今月の栞 2011年9月 本島阿佐子先生 (声楽)

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(C)角川文庫

  パウロ・コエーリョ著、 山川紘矢,山川亜希子訳
『アルケミスト : 夢を旅した少年』
角川書店 1997
     このコーナーのお話を頂いたときに最初に浮かんだ本はパウロ・コエーリョの『アルケミスト』。何度も繰り返し読んでいる私の大好きな話だ。
 羊飼いの少年がスペインの朽ちた修道院で羊と夜を明かすときにいつも見る夢の啓示にあるとき思い切って従う事にして、彼の宝探しの冒険が始まるというもの。実際の宝を探して行くうちに少年は魂の大きな成長をとげて行く。
 童話のような語り口で、ごく自然に、読んでいる者にも少年と共に心の旅を促してくれる。心をとぎすましていれば「おおいなるもの」(人はそれを神や宇宙とも呼ぶ)からのメッセージを私達は常に受け取る事が出来る。心の声を信じて(インスピレーションとも言う)それに従って生きよう。深い精神性のメッセージが込められた作品だ。
 と、ここまでのつもりだったのだが、つい先日青山の岡本太郎記念館で出逢った岡本太郎の『青春ピカソ』そして太郎のパートナー岡本敏子の『いま、生きる力』に大変感銘を受けてしまったので一冊に絞れなくなった。さて困った…ええい、全部書いてしまえ!前書は筆者が「心から尊敬する唯一の芸術家」と賞賛してやまないピカソの芸術について書かれたもの。ピカソの作品と人物像が太郎のそれとがシンンクロしながら生き生きと目に浮かぶ。パリで暮らした頃の青春タローが独自の芸術を探求する様と溢れ出す若いエネルギーにも触れる事が出来る。そして後書はその太郎と言う人物そのものとその芸術に惚れ込んで生涯を共にした女性が、太郎を通して自らの生き方をしなやかに体得していったこちらも確固とした人生観。ピカソも太郎も敏子も常に伸び伸びと自由奔放にいのちを完全燃焼している。爽快な生き方そのものが芸術である。
 「自分らしく」輝いて生きたい、と誰もが願っているはずだ。特に音楽に携わっている私達は、音楽の中に「じぶん」を表現することが生涯のテーマだ。「じぶん」とは何者か。『アルケミスト』を夢物語に終えない為に、現実に一歩を踏み出そう。それには太郎や敏子さんのように、目の前にある「今」に喜びを持って全身全霊で取り組むだけなのだろう。「自分には何ができるのだろう」ではなく「今、私に出来る事は何か」だ。
 その先は「おおいなるもの」がすでに示してくれているはずである。

  図書館員からひとこと