今月の栞 2011年6月 一ノ瀬俊和先生 (イタリア語)

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  森田学編、 木之下晃撮影
『イタリアのオペラと歌曲を知る12章』
東京堂出版 2009
     最近の大学院オペラをはじめクニタチの学生や卒業生による公演に出かけて思うのは、出演者のイタリア語の発音、イントネーションが以前と比べて格段に向上した、ということです。私の専門は外国語(イタリア語)なので、アリアを聴いていてもそのことばが気になります。一昔まえは、公演を終えた男子学生に「おい、声はよく出ていたと思うんだけど、ことばがちっとも聞こえなかったぞ。もっとしっかり発音しなきゃ!」などと感想を述べ、「へぇー、そうでしたかぁ。先生、きびしいなぁ」などと答えられることがよくありました。いまとなってはそんなことが、うそのようです。
 これは、新課程から始まったディクションの成果が着実に表れているせいでしょう。歌を歌うということはただ声を出すのではなく、その作品の制作された過程や時代背景、さらにはその底に流れている奥深いイタリア文化を理解することが重要なのです。具体的な発音はもちろんですが、こうした事柄も踏まえた授業によって学生の歌唱や演技が飛躍的に向上したのだと思っています。
 クニタチでこのディクション(伊語)の授業を精力的に展開している森田学先生が、2年ほど前に編集し刊行されたのが本書です。ご覧のとおり、音楽をはじめ文学、美術、歴史、演劇などの専門家が執筆しており、非常に興味深く、濃い内容の本に仕上がっています。よくあるオペラの概説書とは一味もふた味も違う内容です。森田先生は、まえがきのなかで「この音楽とことばの微妙なバランスこそがイタリア音楽の更なる魅力を享受するための鍵となる」と述べていますが、まさにその鍵を理解するための本なのです。声楽を志す人はもちろん、一般の音楽愛好家とくに本物志向の強い方にとっても、非常におもしろい話が満載です。また、編者は本書を通読することで、イタリアの文化・教養も身に着けられると述べています。実際、音楽という切り口からこの国を眺められるという点で、イタリア好きにとっても、とても刺激的な内容となっています。ぜひ奥深いイタリアオペラと歌曲の世界にひたってみてください!


  図書館員からひとこと