今月の栞 2011年6月 塩原麻里先生 (音楽教育学)

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  ジェラルド・M.エーデルマン著
『脳は空より広いか : 「私」という現象を考える』
草思社 2006
     この本の副題は、「私」という現象を考える、である。著者エーデルマンは、1972年に、免疫に関する研究により、43歳の若さでノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者である。受賞後も精力的に、発生学や脳科学、そしてロボット工学など研究領域を広げながら取り組んできたテーマが、人間の「意識」を科学的に解明することであった。私が私であること、それは誰にとっても当たり前のことであるが、それを他人が見たり聞いたりすることはできない。そして、この私は、この宇宙でたった一つの存在である。エーデルマンは、歴史を通して宗教や哲学で論じられてきたものの、科学的には検証不可能とされていた、この主観的な私、という意識を、脳で起きている出来事の観点から解明し、そのメカニズムを「ダイナミック・コア」と呼んでいる。音楽経験において私たちは、なぜこの音楽をこのように感じるか、なぜこの音楽が私にとって特別な価値があるのか、と常に自問自答しているのではないか。そして音楽を演奏する際には、心と身体の感覚を最大限に研ぎ澄ましながら、自分の求める表現を追求していくのではないか。その背後で働く自分の意識のメカニズムについて、興味のある人たちに是非薦めたい一書である。


  図書館員からひとこと