今月の栞 2011年5月 山本幸正先生 (教職科目)

KS00018

  野口三千三著
『原初生命体としての人間 : 野口体操の理論』
岩波書店 2003
     私は野口三千三(みちぞう)(1914−1998)のこの本を専門ゼミの推薦図書として紹介しました。音楽の演奏の面からも、また研究の面からも数多くの示唆に富んだ名著だと思います。1972年に三笠書房から出版されたこの本も、今は文庫本で読むことができ、養老孟司が解説を添えています。野口三千三はかつて東京芸術大学の体育の教官であり、自ら「からだの動きの中に人間とは何かを求めつづけてきた」と言っているように、体操を通して人間という生命体を豊かに洞察しています。示唆の一つ、脳で考えるというとらえ方はすでに古く、「肉体で考えるととらえる新しい次元が到来しつつある」という言説には衝撃を覚えます。また、歌ったり楽器を演奏したりといった運動をするには、400もある筋肉が巧みに連携して初めて可能になるわけですが、野口は、「次の瞬間、新しく仕事をすることのできる筋肉は、今、休んでいる筋肉だけ」であって、次々に仕事をするためには、なるべく多くの筋肉が休んでいなければならないと述べています。このことを広げ、脳細胞にいたるまで、あらゆる器官・組織・細胞のすべてにおいて「解放されている部分が多ければ多いほど、そこにそれだけ新しい可能性を多くもつことができる」とも述べており、刺激的です。野口はさらに、からだの動き自体も「ことば」であると述べています。野口の守備範囲は広く、関係する学問分野としては、運動生理学と東洋哲学、それに解剖学、物理学、言語学、音声学など多岐にわたってはいますが、単なる博識ではなく、すべて自身のからだに尋ね、からだからきこえる「声」を書き留めているといってもよいでしょう。


  図書館員からひとこと