今月の栞 2011年3月 宮地忠明先生 (理事長)

KS00014

  松崎運之助著
『学校』
社 1981
   1983(昭和58)年、指導主事として荒川区立第9中学校の夜間学級に初めて訪問した時、初老の女性は私に「この学校を潰さないでください!」と叫んだ。私はその意味がわからなかった。この学級では、歳を召した生徒が「あいうえお」や「足し算、引き算」などの学習に真剣に取り組んでいた。ある生徒が、「字が書けるようになって、夕焼けがこんなに美しいと感じたことはありませんでした。」と語った。学級に通う生徒の多くは、第二次世界大戦前に朝鮮半島から労働力として移動を余儀なくされたり、戦後の混乱期の貧困ゆえに義務教育が受けられなかったりした人々であった。昼間ひるま働く中で、教育を受けずに人生を歩んできたことの悲哀を語る言葉が私の心にずっしりと響いた。だから、夜間学級に通うことに意欲と喜びをもっていた。
 松崎著の「学校」は、江東区立小松川第2中学校夜間学級の教師としての体験を綴り、1981年晩聲社から発刊され、この度復刻された。元本もとほんは荒川九中を舞台に山田洋次映画監督によって、西田敏行氏(国語教師)や竹下景子氏(数学教師)らと生徒との温かくユーモアのある人間関係の中に、生きる意味を問う日々が映画化された。
 学校に通い、文字が書け、計算が出来ることが当たり前、豊かにみえる社会に生きてきた私は、夜間学級生との関わりから自らの在りようとともに、教育に携わる者として「学校とは何か、教育とは何か」を考える発端になった。
 
  図書館員からひとこと