今月の栞 2011年2月 末松淑美先生 (ドイツ語)

KS00012

  鈴木孝夫著
『ことばと文化』
岩波書店 1973
   1973年から読み継がれている岩波新書のロングセラー『ことばと文化』を紹介します。ここで言う文化とは、ごく日常的なことばの習慣のことです。私たちは無意識のうちに、社会のことばのルールに従っています。社会が違えばルールも違います。それをこの本は、豊富な具体例とともに解き明かしてくれます。私にとっては、「ことばの意味の原点」を思い出させてくれる大切な一冊です。
 いちばん笑ったのは、英語の小説に出てくる「髭の生えた唇」の話(p.40)です。唇に髭が生えているところを想像すると奇妙ですが、英語のlipは日本語の唇よりもっと広い部分を指すので大丈夫なのです。ドイツ語やイタリア語、ラテン語に至るまで同じだそうです。「転がる石に苔はつかない」ということわざは、「職をよく変える人は成功しない」という意味で使いますが、転職に対する価値観が異なるアメリカでは「いつでも動いていれば決して錆び付かない」という意味にとる人がいる(p.23)と言います。文化的コンテクストが違うと、同じことわざの解釈も正反対になってしまうのです。最後の章には日本語の親族名称の話(p.146)が出てきます。弟は兄を「兄ちゃん」と呼びますが、兄は弟を「弟ちゃん」とは呼びません。なぜでしょう。そこには日本文化に根ざしたあるルールがあるのですが、知りたい人はこの本を手に取ってみてください。
 ことばは、辞書に載っている意味だけでは理解できません。ことばの向こうに人の営みが見えてはじめて、ことばは生き生きとし、理解も深くなります。外国語も日本語も同じです。ぜひ意味の世界に遊んでみてください。
 
  図書館員からひとこと