今月の栞 2010年9月 中西千春先生 (英語)

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  ロイス・ローリー 著
『ギヴァー : 記憶を注ぐ者』
新評論 2010
   この小説は,すぐれた児童文学作品に贈られるニューベリー賞を受賞していますが,児童文学のジャンルをこえて,若い人も大人たちも考えさせられる,不思議でおもしろい作品です。

 10代から20代は,友情,恋愛,進路・職業選択などについて,悩みの種が尽きない時。人は,ひとりひとりの能力が異なり,努力の限界も異なりますから,苦しくても自分の適性は自分で見極めなくてはなりません。ところが「ギヴァー」の世界,主人公ジョナスの住むコミュニティは違います。そこでは,赤ん坊が生まれたときから12年間,複数の大人たち=長老グループが,その子をずっと観察し,記録し,話し合いを重ね,「12歳の儀式」のときに,その子に,適切な職業を授けます。自分の職業は自分で決めなくてよいのです。いや,決められないのです。結婚相手も同じように長老グループが決めてくれます。子どもの数は,どの家族も2人,男の子と女の子です。「考える」「決める」のは,個人ではなく,長老たちなのです。規則を守っていれば,考えたり,悩んだりしなくても,苦痛・不安・不便もなく,安全で平穏な毎日が,個人個人に保証されます。でも,このコミュニティには,絶対的なものが不足しています。感情と愛情です。人を好きになると心が弾みます,でも,好きだからこそ苦しいこともあります。確かに,新聞やテレビを騒がせる事件は,愛情や憎しみが原因だということが多いでしょう。感情や愛情がなければ,世の中のもめごとは減り,すべてが理路整然と進むはずと長老たちは考えているようです。こんな「ギヴァー」の世界に生まれたら,皆さんはどうしますか?

 「ギヴァー」は,読み始めたら途中ではやめられないかもしれません。用事のない時に読むことをおすすめします。特に,洋書を読んでみたいと思っている人,とても読みやすい英語です。日本語を読んでから,英語を読んでみてはどうでしょう。すんなりと頭に入ってきますよ。

 
  図書館員からひとこと