今月の栞 2010年9月 佐藤真一先生 (歴史)

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  東山魁夷著
『ドイツ・オーストリア : 東山魁夷小画集』
新潮社 1984
   親しい友に贈り物をするとしたら・・・。そう考えるとき、まず思い浮かぶのが、この文庫本である。私にとって大切な画集である。
 画家は、1969年の春浅い日に、青春時代の思い出を胸に、ドイツとオーストリアを旅する。旅の出発点は、ハンザ都市リューベックであった。「北方のきびしさは私の心の支えであり、その叙情は私の心のやすらいである。リューベックの町の、夜空に聳える教会の尖塔、近くの窓辺に漏れる燈火の温かさ」。
 旅の途上で、家並みを、大聖堂を、窓辺の情景、湖、木立を描く。画家の風景にたいする愛情がひしひしと伝わってくる。ローテンブルクでは、市門に刻まれた言葉を書き留める。「歩み入る者に、やすらぎを。去り行く人に、しあわせを」。
 国境を越えるとすぐ、モーツァルトのふるさとである。「ザルツブルクの古城を、雪の樹間に見る構想は、音楽の都ザルツブルクへの、私の思慕の心を表わす。それは、聖夜の幻想にも繋っている」。
 東山画伯の絵とことばは、深く心に染み入ってくる。

 
  図書館員からひとこと