音楽研究 26 (2014) 請求記号 = [PB102D 26]

著作者 白石 美雪 ( SHIRAISHI Miyuki )
タイトル 1960年代の3大新聞にみるジョン・ケージ : 記事目録と分析
( Reports of John Cage in the Three Major Japanese Newspapers in the 1960s : The List of Articles and their Analysis )
ページ 17-32
本文の言語 日本語
抄録  本論文は1960年代の日本における「ケージ現象」の解明のために、『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』に掲載された署名・無署名の記者・評論家による記事の目録を提示することを目的とする。新聞記事という言説空間における「ケージ現象」、すなわち、彼の楽曲と著作そのものを超えて、演奏者や聴衆を巻き込んで構成された音と文字の世界を詳らかにするための基礎作業となる。これら3大新聞は現在、インターネットを通じたデータベースとして記事検索のシステムが公開されているものの、こうしたデータ検索では、今回の目録にあげた多くの記事が検索対象とされないことが明らかになった。この時期のケージに関する日本の新聞記事を調査した先行研究には上野正章氏の諸論文があるが、網羅的ではない。本目録は1960年1月1日から1969年12月31日までに発行された3大新聞について、縮刷版に収録された東京版の朝刊・夕刊から、ジョン・ケージの名前が本文に含まれる記事すべてを列挙している。その結果、目録には99点の新聞記事(先行研究で言及された大阪版の記事および『日本経済新聞』の記事3点を含む)をあげることができた。
 当時、より専門的な記事が『芸術新潮』等の文芸雑誌、『朝日ジャーナル』等の週刊誌、さらに『音楽芸術』等の音楽雑誌に掲載されていたことは周知の通りだが、その後のケージ研究の対象から落ちてしまった新聞記事を目録化することに意義がある。目録から明らかになることの一つは、「ジョン・ケージ」という名前が新聞の読者に浸透していったプロセスである。新聞の記事は全体にさっと目を通していくという読み方が一般的なので、ケージのイメージはどんな言葉と結び付けて説明されたかによって形成される部分が大きいと考えられる。
 この観点から、作成された目録の内容について若干の分析を試みた。記事の多くで使われた「アメリカの作曲家」というレッテルはヨーロッパの前衛との区別を意識したものであり、中には「超前衛」と呼んだ記事があった一方、のちに一般的になる「実験音楽」、「実験主義」という言葉はごくわずかだったことが確認された。作曲技法については「不確定性」よりも「偶然性」という言葉で説明されているものが多く、図形楽譜についての説明が一般にも広まっていたと推測される記事があった。さらに、1950年代にケージを紹介した雑誌では禅や易経といった東洋との関わりに言及している記事がほとんどだったのに対して、1960年代には数が少なく、1960年から62年までの時期に集中していた。しかもケージ自身と彼に近い一柳がインド哲学、禅、鈴木大拙への関心を積極的に語り、情報として発信する一方、第三者がこれらのキーワードを使った例は意外と少なかったことがわかった。