音楽研究 25 (2013) 請求記号 = [PB102D 25]

著作者 大武 彩子 ( OHTAKE Ayako )
タイトル 《ホフマン物語》ヒロイン役の上演形態を巡って ―初演及び初期演奏史を中心に―
( Early Performances of 《Les Contes d’Hoffmann》 : Focusing on its Heroines )
ページ 61-76
本文の言語 日本語
抄録  ジャック・オッフェンバックJacques Offenbach(1819-1880)未完の遺作であるオペラ《ホフマン物語Les Contes d’Hoffmann》(1881)には、4人のヒロインがいる。オランピア、アントニア、ジュリエッタ、ステッラという女性がそれであり、彼女達は1つの幕ごとに、入れかわりたちかわり登場する。オッフェンバックは、これらのヒロインを同一歌手に歌い演じさせるつもりで本作品を作曲した。この理由は、“彼女達は1つの心を持ち、ステッラが残りの3人の母体である”という、ヒロインに与えられた奇妙な設定にみることができる。原作の同名戯曲においても、同設定の元、この複雑なヒロインは1人の女優によって演じられた。しかし、オペラにおいては、1人でヒロイン全役を担うという上演形態は定着しなかった。初演では、アデル・イザークAdèle Isaac(1854-1915)というソプラノがヒロイン全役を担当したが、役ごとに異なるソプラノを使用する例が20世紀初頭に生まれると、そちらが一般化したのである。
 複数歌手による上演が一般化した背景には、主な理由として歌唱の難易度が挙げられる。つまりこの形態は、作品解釈における明確な意図があってのことではなく、歌手の都合を考えて選択された場合が多いということである。“ヒロイン役を1人で担当するのか、複数で分けるのか”という点は、単なるオムニバス形式ではない本作品においては、作品解釈、さらにはドラマの本質にも大きく関わる問題であるが、不可解なことに、これまであまり議論自体がなされてこなかった。本論文は、これまで一般に歌唱個所がないものとみなされてきたステッラを除くヒロイン3人にまず着目し、ヒロインの上演形態の選択について考察するものである。
 まず1章では、本作品のヒロインの譜面が、1人(1つの声帯)で歌うことが困難なものになった原因を探るため、初演歌手に着目する。初演歌手が決定するまでの流れ、そしてそれに伴うオッフェンバックの作曲プロセスを辿り、各ヒロインに求められる声楽的要素が、いかなる理由でこれほどまでに異なるものになったのかを明らかにする。
 続いて2章では、ヒロインの配役に着目し、1人で行われた公演と複数で行われた公演のそれぞれに対する評価、批評がどのようなものだったのかを提示しながら、現在までの演奏史を考察する。
 3章では、“1人か複数か”という上演形態の選択が、どのように行われるべきか検討する。オッフェンバックが意図したという理由だけではなく、作品解釈の点からも1人で歌われることが望ましい、という見解が導きだせる。
 4章では、残りの3人の母体である4人目のヒロイン、ステッラについて考察する。作中で、彼女がモーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》のドンア・アンナを演じるプリマ・ドンナとして描かれていることから、ステッラは勿論のこと、彼女の分身である残りの3人のヒロインにも、アンナを彷彿とさせるような、なんらかの要素が必要なのではないかという見解にたどり着く。
 最後に、この先の研究課題を明らかにし、本論文を締めくくる。