音楽研究 23 (2011)  請求記号 = [PB102D 23]

著作者 阿部 雅子( Abe Masako )
タイトル C.モンテヴェルディ《聖母の晩課》における『雅歌』を原典とした2曲のコンチェルトのテクスト解釈
( Textual Interpretation of Two Concertos Based on Canticles in Monteverdi's Vespers of 1610 )
ページ 33-47
本文の言語 日本語
抄録

 本稿は、C.モンテヴェルディの《Vespro della Beata Vergine 聖母の晩課》(以下Vespro)に収められた2曲のコンチェルト、〈Nigra sum 私は色が黒い〉と〈Pulchra es お前は美しい〉に焦点をあて、ここからモンテヴェルディのテクスト解釈について考察するものである。この作品のテクストは、世俗の男女間の愛を官能的に謳った、旧約聖書の一書である『雅歌』と、それを原典にもつ聖母の祝祭日に関するアンティフォナの2作品を基盤としている。『雅歌』がアンティフォナの原典として採用されるに至った経緯は不明だが、その正典性は多数の解釈をもって擁護されてきた。特に、モンテヴェルディの時代には『雅歌』のテクストを聖母マリアとキリストと関連づける「寓意的解釈」が一般的であったと考えられている。しかし、《Vespro》に着手するにあたり、モンテヴェルディはこの原典に独自の見解を持って2曲のコンチェルトを作曲したと、執筆者は考える。コンチェルトにおける、原典からのテクストの改変や楽曲分析、また同時代の作曲者とのテクスト比較を通して読み取ることが出来たのは、モンテヴェルディが、〈Nigra sum〉と〈Pulchra es〉に宗教的な解釈を反映させることよりも、原典に描かれた言葉や動向を、鮮明に表現することを重んじる彼の姿勢であった。このことは、2曲のコンチェルトが音楽的にも従来の教会音楽とは一線を画しており、まるで後期マドリガーレ作品を彷彿させる楽曲となっていることからも見て取れるだろう。第一章ではカトリック教会における聖務日課、また聖母マリアに関する祝祭日の晩課について言及し、〈Nigra sum〉と〈Pulchra es〉の2曲のコンチェルトと、旧約聖書の『雅歌』との関連性について考察する。第二章では『雅歌』の正典性、及びその歴史的推移について検証する。『雅歌』における三つの解釈、「寓意的・比喩的解釈」、「予型論的解釈」、「字義的解釈」に焦点をあて、その変遷を提示した上で、「寓意的解釈」と《Vespro》のコンチェルトの関連性について言及する。第三章では、〈Nigra sum〉と〈Pulchra es〉各コンチェルトの楽曲分析とテクストの考察をする。『雅歌』からアンティフォナを経て、コンチェルトへと編纂されたテクストについて検証した上で、聖母マリアの寓意が読み取れるアンティフォナのテクストと、モンテヴェルディが再構築したコンチェルトのテクストを比較し、彼のテクスト解釈について論考する。第四章では、16〜17世紀のイタリアにみる『雅歌』のテクスト解釈を行う。ここでは、「寓意的解釈」が他の作曲家のテクストに反映されていた点を挙げた上で、モンテヴェルディが「寓意的解釈」よりも、テクストから読み取れる「感情」を表出することに重きを置いたという見解を提案し、彼の書簡などを用いて考察する。最終章では、2曲のコンチェルトから読み取れるモンテヴェルディのテクスト解釈について再度言及し、さらに今後の研究への課題を提案する。