音楽研究 22 (2010)  請求記号 = [PB102D 22]

著作者 戸澤 史子( Tozawa Ayako )
タイトル ヨハン・ミヒャエル・ハイドンのグラドゥアーレ : 教会暦に基づく「年間チクルス」の構想をめぐって
( Gradualien von Johann Michael Haydn : Zur Konzeption von einem "Zyklus" nach dem Kirchenjahr )
ページ 91-106
本文の言語 日本語
抄録  本研究は、ザルツブルクの宮廷音楽家ヨハン・ミヒャエル・ハイドン (Johann Michael Haydn, 1737 – 1806) が1783年以降に作曲した111曲のグラドゥアーレに着目し、その創作の意義を、当時の教会音楽史に位置づけて考察したものである。
 18世紀ザルツブルクの典礼においては、本来のローマ・カトリック典礼でグラドゥアーレが歌われていた使徒書簡と福音朗読の間に、書簡ソナタ等の器楽曲が演奏されるのが通例となっていた。このような伝統が形成されることによって、グラドゥアーレというジャンルは、当時ほとんど姿を消していたのである。ここに再び光を当てたのが、M. ハイドンの創作であった。111曲におよぶグラドゥアーレは、カトリック教会暦の通年にわたって作曲されている。
 小論では、まず一連のグラドゥアーレの成立状況を整理し、とりわけ作曲家自身の自主性という部分に注目した。これらは、しばしばコロレード大司教が進めた教会改革との関連で言及されることが多かった。しかし、そのテクストの選択の仕方、作曲の時期、そしてM. ハイドンの神学的な関心といった点から考察した結果、作曲家自身が、この創作に対して明確な目的意識をもって取り組んでいたことは、ほぼ間違いないと思われる。さらに小論では、Hrncirikの先行研究を踏まえ、これらのグラドゥアーレを教会暦の「年間チクルス」という概念のもとに捉え、それが教会音楽史においてどのような位置を占めるのか、過去の作例をもとに検証した。その結果、ミサ固有文による「年間チクルス」の存在はごく限られており、グラドゥアーレに関しては、その作例を見出すことはできなかった。このことは、M. ハイドンの創作の特殊性を、より一層裏付けている。 
 M. ハイドンは、この「年間チクルス」の完成という大きな成果を通じ、「グラドゥアーレ」というジャンルに、実際の典礼と音楽的価値とが密接に結びついた、新たな意義を与えることに成功したと言える。