音楽研究 22 (2010)  請求記号 = [PB102D 22]

著作者 森 太郎( Mori Taro )
タイトル オーケストラ用遮音壁とその改良のための数値シミュレーション
( A Sound Insulation Screen for Orchestra Musicians and its Numerical Simulation for the Improvement )
ページ 31-42
本文の言語 日本語
抄録  本論文では、近年開発が期待されているオーケストラ用遮音壁の持つべき性能について考察する。オーケストラピットや練習場等の中では、音楽家は常に許容範囲を超える大きな音を聴いているため、難聴になる危険があることが指摘されており、近年では法律により演奏家の聴覚を守ることを義務付ける傾向が強まっている。本論文では、音楽家が難聴になることを防ぐために有効な、オーケストラ用遮音壁について考察する。
 本稿では、はじめにオーケストラ用遮音壁が持つべき四つの性能について考察する。遮音壁は第一に周辺の楽器の音を適切に減少させる必要がある。第二に指揮者や聴衆には、演奏音が適切な大きさで届かなくてはならない。第三に、遮音壁によって新たな騒音が生じることがないようにしなければならない。最後に、視覚情報を失わないことが必要であることを述べる。
 次の章では、遮音壁のプロトタイプによる、スタジオにおける遮音壁の有効性を確かめる。実験を効率よく行い、かつ再現性を高めるために遮音性能を自動計測するためのシステムを構築し、測定した。遮音壁の有る場合と無い場合の音圧の差を周波数ごとに測定したところ、金管楽器等で特に抑えられなければならない高音域では、遮音性能が7から12dB程度確保されていることがわかった。また、遮音壁の上部と下部を接合する角度によって、遮音性能が変化することが確かめられた。一方、遠方では、室内の壁や天井等からの反射音のために、遮音壁の影響は小さく角度による差異が小さいことも示した。さらに遮音壁からの距離と遮音性能の関係を視覚的に表すため、円内で離散的に測定した結果から、内挿によって途中点での値を計算して濃淡で示した。一方、反射音による影響を測定したところ、必ずしも吸音孔を持つ板を用いた場合に吸音効果が高いとは言えないことがわかった。
 続く章では、無響室において遮音壁の性能を測定し、測定結果を有限要素法によるシミュレーションと比較した。シミュレーション結果は、低周波数での特徴的な干渉縞を含めて実測値と一致し、遮音壁の特徴が十分視認できた。一方、特定の一点、たとえば壁の中央からちょうど1mの位置等の条件では、周波数によってはシミュレーションと実測値に乖離が生することも観察できた。これは、実際の工作物の非対称性などから干渉縞の位置がずれることが主因だと考えられる。また、シミュレーションでは、計算量を減らすためにスピーカ前面から一様に音が放射されるものとしたが、実際のスピーカとは指向性が異なることも一因と考えられる。したがって、設計にはその点を考慮し、大まかな傾向を見るために使用するべきであることが確認できた。
 本稿の結果から、オーケストラピットなどの様々な音場で、使用される楽器や、部屋の大きさなど、個々に求められる条件に合った遮音壁が設計できることになる。
 本論文で述べた結果から、著者らはドイツ連邦理工学研究所、ミュンスター市立劇場、およびヴェストファーレン−リッペ共同保険組合の合同プロジェクトにおいて遮音壁を実用化し、既に複数のオーケストラで試用されている。